@月灯りの移動劇場

芸術学部 芸術学科

舞台芸術領域

融合するアートの象徴。
あなたが舞台をつくる。舞台に立つだけが、舞台芸術のぜんぶじゃない。

音楽、演劇、舞踏、さらにはオペラ、バレエ、ミュージカル、歌舞伎など、私たちが普段、鑑賞するさまざまな舞台。
それは、演者だけでつくられるものではありません。プロデューサー、演出家、舞台美術家、照明デザイナー、音響プランナー…、優れたプログラムは、多くの人々の力が集結してでき上がるもの。
名古屋芸術大学は、舞台芸術のつくり手としての実践的なスキルと豊かな感性を本格的に学ぶ「舞台芸術領域」を新たに開設します。

時代が求めるのは、クリエイティブな新しい発想。
一回性からしか生まれることのない感動を社会に提供するために。

舞台芸術を通して、想像力・創造力を高め、感動を社会に提供できる人材を育成する。

 現代社会で求められるもの、それはクリエイティブな発想であり、多様な“芸術との出会い”こそが、そういった想像力・創造力の源となります。舞台芸術の観客、そして舞台の上に立つ演者は「今、ここ」にいる人たちです。そしてクリエイティブな発想を持って「今、ここ」にいる観客と演者の関係性を構築するのが、舞台芸術をつくる人々。舞台芸術領域は、この一回性からしか生まれることのない真の感動を社会に提供できる人材を育成するために誕生しました。

舞台芸術に関する実践的スキルとともに、舞台芸術の発展と社会的課題の解決に向けて、意欲的に取り組める人材へ。

 劇場や実演団体の社会的な役割は、素晴らしい作品を提供し、そこで生まれる感動を原動力とした人々の変容によって、社会に刺激を与えていくことだと考えます。舞台芸術領域では、舞台芸術を通して社会をより豊かにすることのできる人材を育成します。

舞台芸術領域で育む力

  • 日本全国や世界中で活躍する教員から、多角的に舞台芸術を学び、今後の舞台芸術業界を牽引することのできるスキル
  • 社会状況に関心を持ち、状況を俯瞰した上でリーダーシップを発揮し、問題意識を持って文化芸術を通した課題解決に立ち向かう力
  • チームビルディングやコミュニケーション等を通した、他者への敬意や謙虚な姿勢

これらの力は舞台芸術以外の芸術分野や一般社会でも活かすことができます。

向いている人

 舞台は人前に出る演者だけでつくられるものではありません。プロモーション活動や現場の制作、音響や照明の演出など、さまざまなスタッフにより、大勢の人々の感動は生み出されます。そのため、「舞台や劇が好き」といった興味は大切ですが、人と協調して何かをつくり上げることが好きな方、「自分が舞台をつくる!」という志の高い方にこそ学んでほしいと思います。音楽・スポーツイベントでの演出や空間に興味があり、スタッフとして好きなアーティストや選手を支えていきたいと思う方も歓迎します。

 舞台芸術領域では、1年次に業界常識や舞台芸術に関する基礎を学んだ後、2年次以降は「舞台美術コース」「演出空間コース」「舞台プロデュースコース」の3コースにそれぞれ分かれ、理論と実践から総合的に学んでいきます。そして卒業後、舞台美術家、舞台照明家、舞台音響家、舞台プロデューサー等、舞台芸術に関わる多様な職業につく人材の輩出を目指します。

舞台芸術領域での4年間の学び

1年次の学び

 3コースすべての基礎を全般的に学ぶ時間です。どのように企画され制作されていくのか、どのように舞台芸術は考察されつくられていくのか、どのように照明や音響はデザインされていくのか、また、舞台芸術の歴史や社会的背景、著名な作品、舞台芸術業界の常識等々、さまざまな内容の基礎を学びます。

 幅広い知識を身につける貴重な1年間。1年次の学びは、将来、社会に出た時に実はすごく力になるのです!

2年次の学び

 コースを選択して専門的に学びます。1年次に比べ、ぐっと専門的になります。舞台芸術コースでは実際に模型や舞台美術セットをつくり、演出空間コースでは専用ソフトの使い方や、機材の操作を学外のホールも使って学びます(音響・照明の両方を学びます)。舞台プロデュースコースでは実際の公演を企画制作します。

 専門コースの基礎を身につける1年間。将来、社会で困った時に戻る専門分野の原点は2年次の学び。シンプルだけど奥の深い1年になるはず!

3年次の学び

 演出家との共同作業が本格的に始まります。舞台芸術は、美的に優れたものを演出家の意図に沿わせたり、舞台の大きさや機構に合わせたりしながら、それぞれの担当分野で制作していくことが重要です。また、公演の宣伝やチケットを売ることも大切です。実習が増えますが、実践を支える理論の学びも継続していきます。

 インターンシップも含めて、外部の人たちとの関わりが一気に増える1年間。プロのアーティストと共に舞台をつくる貴重な時間です。

4年次の学び

 大学生の集大成として、卒業制作公演に向けて領域全体で一致団結して取り組みます。学外の劇場で実施する大掛かりな創業制作公演のため、1年間をかけて準備をしていきますが、それだけではなく、各コースで卒業研究も行い、理論と実践による大学生としての学びを充実させます。

 これまでの夢が、卒業後のキャリアとして現実的になっていく1年間。社会人としての振る舞いを身につけ、意識も変わっていきます。

舞台芸術領域 座談会

舞台芸術の未来をここから

 2021年、名古屋芸術大学に舞台芸術領域が誕生します。あらゆる芸術分野が融合した舞台芸術のつくり手を育成する、東海地区初の学びの領域です。舞台美術家、プロデューサー、演出家、アートマネジメント研究者として活動する4人の指導陣が、本領域の特長や育成する人材像などについて語り合いました。

舞台美術家

金井勇一郎

 金井大道具株式会社 代表取締役社長。ニューヨークのメトロポリタンオペラハウスでの研修をきっかけに舞台美術界へ。市川猿之助(現:市川猿翁)のスーパー歌舞伎などを担当。歌舞伎美術にアールヌーヴォーのデザインを取り入れるなど、独自のアイデアで多数の舞台をつくり上げた。2019年度より本学特別客員教授。

舞台監督、プロデューサー

丹羽康雄

 1952年東京生まれ。1976年、多摩芸術学園芸能美術科卒業。同年、財団法人ニッセイ児童文化振興財団(現:ニッセイ文化振興財団・日生劇場)に入社。技術部長、企画制作部長を歴任。2007年〜2013年までは企画制作部長と財団理事を兼任。2014年〜2020年まで愛知県芸術劇場館長。現在、同劇場アドバイザー。2020年度より特別客員教授。

演出家

鳴海康平

 劇団「第七劇場」代表。早稲田大学第一文学部在籍中、19歳で劇団を結成。東京やフランスで経験を重ね、35歳で劇場「テアトル・ドゥ・ベルヴィル」を立ち上げ、さまざまな演劇作品の演出を手掛けるとともに、大学等で特別講師として指導にあたるなど教育・育成活動にも注力している。2021年度より准教授として着任予定。

アートマネジメント研究者

梶田美香

 音楽大学を卒業後、愛知県を中心に演奏活動を展開する傍ら、2005年~2010年まで名古屋市立大学大学院で学ぶ。現在は、アートプロジェクトや劇場に関する調査研究、エデュケーションプログラムの企画制作などを中心に活動。また文化行政の委員も歴任。名古屋芸術大学教授。名古屋大学、南山大学非常勤講師。博士(人間文化)。

舞台芸術のすべてを1年次から経験する

梶田:本来、芸術とは音楽や美術が融合した分野です。ただ、日本の多くの芸術大学がその間の橋渡しができておらず、本学もキャンパスが分かれていることもあって、ここに至るまでに時間がかかりました。しかし、ついに音楽と美術が融合・横断した領域が新設されることになり、本学の念願が叶うと同時に、舞台芸術を支える側に興味を持つ学生のニーズにも応えるものと考えています。本領域では1年次に舞台芸術の基礎を総合的に学び、2年次から舞台芸術の成立に不可欠な舞台美術、舞台プロデュース、演出空間の3コースで専門性を養います。ここが学びの特色といえるでしょう。

丹羽:1年次に舞台芸術に関わるさまざまな要素を学べるカリキュラムは、とてもいいと思っています。というのも、作品を上演する際に、演出家やプロデューサーが照明や音響のことをある程度理解しているかいないかで、できあがるものが全く違ってくるからです。私自身も舞台に関わるいろいろな業務に携わってきましたので、舞台プロデュースコースでは、そうした経験をもとに、ものをつくる時の考え方などを伝えていくつもりです。また、照明や音響デザイナーを育成する演出空間コースは、劇場だけでなく、屋外のライブやアートプロジェクトなどにも可能性が広がる分野だと思います。

金井:舞台美術コースでは、脚本を読み、情景を考えてデザインし、自分たちで大道具などをつくり、劇場へ設営し、そこに照明と音響、俳優が入り、演出家の指示によって作品をつくり上げていく、こういった一連の流れを学生に経験してもらおうと考えています。舞台美術とは、デザインや大道具が作品ではなく、そこに照明や音響、俳優が入り、観客が見て初めて完成するもの。そのことを感じてもらうには現場から学ぶことが大事ですので、3年次のインターンシップでは時間をかけて一つの作品をつくり上げたいと考えています。

鳴海:私は演出家、カンパニーの代表として学生と接することになるのですが、4年の間に何より「正しく失敗する」という経験を手助けしたいと思っています。大学で失敗にどう向き合い乗り越えていくのか、その手法や態度を学び、心が折れるようなことに対しても前進する力を身につけられれば、社会に出た時に非常に役に立つと思います。

梶田:教育は理論と実践の両輪で展開していく予定ですが、特に実践については学生にとって最初にふれるものが基準となるからこそ、お三方のように現場の第一線で活動されている先生方に指導をお願いしています。現場の経験ほど価値のあるものはなく、ぜひその空気感をストレートに伝えていただきたいと考えています。

舞台芸術とは人と人がつくり上げるもの

梶田:本領域では、作品をみんなで一緒につくり上げます。自分の専門性を磨きつつ、人との協働を学べる点にも大きな意義があると考えています。

金井:おっしゃるとおりです。美術にせよ音楽にせよ、基本的には個人の才能が重要ですが、舞台芸術に関しては1人だけの才能が優れていても成立しません。才能のぶつかり合いを乗り越えた時、相乗効果が生まれて新しい創造につながるからこそ、芸術+人間についても教えられたらと思います。

鳴海:人間という観点からいえば、芸術がエッセンシャル(必要)かどうかは、その人が置かれた立場で違うと思います。ただ、芸術という多様な考え方や人間の生き方を保証するという考え方をもとにすれば、変えられるルールや偏見などがあり、多様な分野・層・年代に対して芸術が為せることはたくさんあります。芸術の仕事は、人間を育て守るための仕事ともいえ、本領域の学生には学びを通じて、自分以外の誰かを守ったり、救ったり、豊かにしたりする楽しみを見つけてほしいと思っています。

丹羽:舞台は上演が終われば3時間後には撤収して、その空間には何もなくなってしまいます。いわば、人の心にしか残らないものを、私たちはつくっているわけです。人と人とがつながるからこそできる舞台の仕事の面白さを、ぜひ伝えていきたいですね。

社会に求められる舞台芸術のつくり手を育てたい

梶田:最近は文化GDPが注目され、観客動員数など数値での評価が文化政策でも重視されるようになってきました。その意味では、今後の舞台芸術を担う人材には広い視野で物事をとらえる力が必要です。ただ、数値だけに流されない信念も忘れず、社会に求められる舞台芸術をつくる人材、社会の文化的インフラとして文化芸術を運営する人材、業界を牽引する人材を輩出したいと考えています。

鳴海:今、舞台芸術界は過渡期にあり、10年程前から劇場やカンパニー内の仕事の仕方が変わりつつあります。これまで時代の変化に遅れたり、進みすぎたりと、ある部分でアンバランスだった芸術の世界を、大学で舞台芸術のほか時勢や社会についても学び、変化に対する感覚を身につけた人が良い形に収斂していくのではないかと期待しています。

丹羽:大学はアカデミックなものだからこそ、学生には芸術とは何かということを考えてもらいたいですね。もちろん、具体的な仕事の内容や役割は教えるわけですが、例えばプロデューサーが何をつくっているかといえば、芸術をつくっているわけです。だからこそ、芸術とは何かと考える力を持った人を育てたい。ここでいろいろな基礎を覚えて、やりたいことを見極め、自分の道を切り開いてほしいと思っています。

金井:確かに研究意欲を持って、何でも自ら取り組める人材を育てたいですね。舞台美術に関していえば、学生の中にはデザイナーだけでなく、手でつくりあげていく温かみのある世界に惹かれて、大道具や小道具の製作者を目指す人、舞台監督になりたいという人も出てくるでしょう。そういう希望も良い方向へ導いていきたいと思っています。

鳴海:もう一つ、先生方がいわれたように、舞台芸術は人間と人間が一緒につくったものを生身の人間に見せるという、非常に特殊な表現文化です。誰かと協力しながら、時に対立しながらチームでベストを探す作業は非常に難しい。しかし、それは一般企業でも必要とされることです。相手と協調しつつ自分のオリジナリティーを加えながら、全員を活かせるような作品をつくることは難しい半面、非常に面白くもあり、作品が誰かの心に届いた時の喜びも大きい。チームでものをつくることに喜びを見出せる人材を、送り出したいと思っています。

広く社会に認められる総合芸術大学を体現するために

金井:本領域の将来を考えると、やはり最初の4年間が勝負です。日本や世界に存在感を発信できる領域・大学を目標に全力を尽くしていきます。また、今問題になっている舞台美術の環境問題に率先して取り組み、地球環境への責任を意識した教育、ものづくりを進めていくことも重要だと考えています。

鳴海:現在、本領域では舞台の技術やプロデュースのコースを設けていますが、今後は違うポジションが加わり、学内の多様なコースが集まってくる可能性もあるのではないでしょうか。いずれにせよ、総合的に舞台芸術を支える人材を育成できる領域へと発展させていきたいです。

丹羽:今後、舞台芸術は音楽や芝居が好きな人だけのものではなく、もっと多くの人々が求めるものにならなければいけません。それには劇場だけで作品をつくるのではなく、社会や人々に対して劇場は何ができるのかを示し、文化として教育や福祉につなげていく必要がある。本領域もそうした広がりを持った場になれば、すばらしいと思います。

梶田:本領域は、名芸が目指す総合芸術大学を体現する領域です。高校生にとって芸術大学への進学は特別な感じがするかもしれませんが、そもそも文化や芸術は生活の営みの中から出てくるものです。これまで絵や音楽、芝居などの経験がなくても舞台芸術を担うことへの興味や関心がある人を受け入れられる、まさに総合的な芸術の領域を皆さんと力を合わせてつくっていきたいと思います。